財務諸表から読みとる企業の経営状態
―経営破たんの兆候はどこにあらわれるか―
(関東学院大学 2003年度春期公開講座)
こんにち貸借対照表や損益計算書といった財務諸表(決算書類)を理解する能力(会計リテラシ)が重要視されるようになってきました。バブル崩壊後の大企業の経営破たんやペイオフ解禁などにより、家計部門が抱える多額の金融資産の運用にたいして直接リスクを背負うことが求められることになったことが背景にあります。とはいっても特殊な会計上の仮定や手続を経て作成される財務諸表から企業の業績を理解することは非常にむずかしいのが現状です。経営者による故意の会計操作(粉飾決算)などがある場合にはわれわれが理解できる情報はさらに限界づけられることになります。本講座では財務諸表から読みとれる経営破たんの兆候について、昨今、破たんや外資による買収が相次ぐスーパー業界をとりあげ、紹介いたします。
第吃堯〆睫格析とは何か
1 財務分析とは
1−1 財務分析とは何か
1−2 財務分析の意義
1−2−1 必要性が増す財務分析
1−2−2 財務分析の意義
1−3 財務分析の問題点・限界
1−3−1 会計ルールの柔軟性
1−3−2 経営者による意図的な操作
1−3−3 財務分析の偶然性
2 財務諸表〜貸借対照表と損益計算書
2−1 企業の経営活動と財務諸表
2−2 貸借対照表(Balance Sheet;B/S)
2−2−1 資産の部
2−2−2 負債の部
2−2−3 資本の部
2−3 損益計算書(Profit and Loss Statement;P/L)
2−3−1 営業損益計算の区分
2−3−2 経常損益計算の区分
2−3−3 純損益計算の区分
3 財務分析
3−1 企業の安全性分析
3−1−1 企業の短期支払能力を分析する
3−1−2 企業の長期的な安定性を分析する
3−2 企業の収益性と戦略分析
3−2−1 資本利益率(Return on Investment;ROI)
3−2−2 収益力を決めるふたつの要因
第局堯.院璽好好織妊〜スーパー業界の財務分析
1 財務分析とは
1−1 財務分析とは何か
財務分析とは、企業が公表する財務諸表(商法上は決算書類といいます)をもとに、主として成長性・収益性・安全性の観点から企業の経営活動を分析する方法をいいます。企業が公表する財務諸表の様式には一定のルールがあるものの、財務分析は分析する人の必要によってさまざまに姿を変えます。ここに科学や学問として成熟しがたい性質を見出すことができますが、それでも企業経営者による事業部組織の業績評価や、銀行マンの信用調査などの実務経験を経て、一定の体系化されたスタイルができつつあります。
最初に、財務分析の必要性や問題点について考えましょう。
1−2 財務分析の意義
1−2−1 必要性が増す財務分析
これまで財務分析、すなわち企業が公表する財務諸表(決算書類)にもとづいて、企業の経営活動を評価しようとする人はごく一部の人たちだけでした。たとえば株式や債券などの投資の是非について判断をくだす証券アナリスト。融資の是非を決定するための信用調査にたずさわる銀行マン・・・。このようにビジネスマンであっても財務分析をしようという人たちはごく一部の専門家でした。わたしたちは専門家の意見に耳を傾けることはあっても、直接自分で分析をしようということはほとんどありませんでした。
しかしこのような状況は近い将来変わるだろう、いや、もうすでに変わりつつあると言われています。つまりみずから財務諸表を手に入れて、分析をする、という時代が迫りつつあるというのです。その背景には、相次ぐ金融機関の破たんや、生命保険会社の予定利率の切り下げ、民間企業の倒産数増加と就職難、自己責任型の確定拠出型年金(日本版401K)への移行・・・、等々が背景にあります。
なるほど、財務諸表を分析するノウハウがすべての人の安心な生活にとって、必須のツールになる、とまでは言えなくとも、知っておくことが有利であるということが言えるような状況にはなってきつつあると言えそうです。
1−2−2 財務分析の意義
では、こんにちの不況下にあって、わたしたちが企業の経営状態について知っておくことの優位性が増していることは認めるとしても、企業の状況を判断する方法は財務諸表だけでしょうか。製品・サービスの品質や機能などの利便性、従業員・店員の態度やマナー、所有している土地の面積や場所などの利便性、経営者の人柄、従業員の志気、企業の歴史・伝統、ブランド・知名度、企業文化・・・など、財務諸表よりも参考にすべきことはたくさんありそうです。そのとおりです。
しかしどうでしょう。このような情報をあなたはどこから手に入れることができるでしょうか。また手に入れられたとして、どのように秤に掛けることができるでしょう。こういった、さまざまな諸要因を反映した単一のモノサシはあるでしょうか。こんにちではその役割を財務諸表が担っています。
財務諸表は、企業がもつさまざまな経営資源や、企業がおこなうさまざまな経営活動を、貨幣価値(金額)に換算して、統一的・体系的に把握するものです。
製品・サービスの品質・利便性や従業員のマナーは、それらを購入し、喜んで代金を支払おうとする顧客の行動の結果(売上高)として把握することができるといえます。経営者の人柄もそれらに間接的に影響していることでしょう。そのときは顧客が知りえなかった品質上の欠陥(牛肉の偽装など)も、いずれは影響します。土地や財産の利便性もまた、おそらくは土地を購入するときの価額に反映されているでしょうし、最近では土地がもたらす将来の便益(キャッシュフロー)をもとに算出することもなされます(減損会計など)。
ただし、すべてが適切に反映されているとは言えません。ブランドの価値は、財務諸表には示されていません(現在そのための取り組みがなされています)。また貨幣価値(金額)による評価はマーケットでなされるのが一般的ですが、マーケットが適切に機能していなければ、一部の悪意のある者に操作される余地もあります。
しかしそのような問題点がありつつも、統一的なモノサシで企業活動を体系的に理解するには、企業会計がつくる財務諸表がもっとも適切だと今のところは言えるのではないでしょうか。財務分析は、その財務諸表にもとづいて、さらに比率による分析をおこなうものです。
1−3 財務分析の問題点・限界
いくつかはすでに述べましたが、財務分析には、その基礎資料とする財務諸表に根ざす問題点・限界と、財務分析の手法そのものに根ざすものがいくつかあります。その主なものをここで紹介しておきます。
1−3−1 会計ルールの柔軟性
財務諸表は企業の経営活動の状況を説明するために、株主や投資家(そしてわたしたちなどの潜在的な投資家)など広く社会に公表するものですから、その作成・公表については法律・制度(商法や証券取引法、企業会計原則)が規律づけています。
企業がそれぞれ任意の方法で作成・公表(会計処理)しているとすればどうでしょう。わたしたちはその企業の財務諸表を理解するためにいちいち勉強しなければなりませんし、また他の企業との比較も非常に困難です。財務諸表の信頼性もいちじるしく損なうものとならざるをえません。このような状況を回避するためにその作成・公表にあたって準拠すべき一定のルールが設けられているのです。
しかし厳格な単一の基準に統一されているわけではありません。企業の多様な経営活動を反映して、その処理方法についてもまたある程度の多様性が認められています。このことによって、まったく同一の経営活動についても異なる会計処理がなされうる余地を残してしまい、ここに経営者の政策や判断、見積もりが入らざるをえない状況があります。またこれは法律を規定している国家間でも異なる部分があります。
(日本経済新聞2001年7月14日より)
(日本経済新聞2003年8月1日より)
1−3−2 経営者による意図的な操作
エンロンという企業名をご存じでしょうか。無理な事業拡大を大手会計事務所ぐるみの利益操作(特別目的会社を多用した債務の分離や利益の前倒し計上)でごまかし続けてきたツケが噴出し、倒産したアメリカの総合エネルギー企業です。利益操作(粉飾決算)の例は日本にもあります。
財務分析は財務諸表にもとづいておこなうため、財務諸表に虚偽がある場合には、財務分析がはじき出す数字もまったく無意味になりえます。しかしこれをもって財務分析が無意味であるというのは行き過ぎでしょう。
粉飾決算はむしろ常軌を逸した例外です。例外をもって一般を決めつけることは、ある危険な思想集団をもって宗教一般が害悪だとするようなものです。ただしこのような例外をも実際に存在しうる土壌があることは常に意識しておく必要がありますし、これを抑制できる仕組みづくりも検討すべき大きな課題であることにはまちがいありません。
1−3−3 財務分析の偶然性
以上のような財務分析にとっては外的な要因のほか、財務分析そのものに潜む問題点も指摘されています。
財務分析は1929年のアメリカにおける株価大暴落を発端とした世界恐慌のさいに、銀行による信用調査の手法として、すなわち倒産予測の方法として発展したと言われています。以来、倒産予測のための数々の指標が開発されてきました。統計的な手法をもちいて、実際に倒産した企業とそれらの企業の財務分析をおこない、倒産予測に密接なかかわりをもつ指標を特定する研究もすすんでいます。
しかしそれでも財務分析では絶対的な倒産予測をすることはできません。数々の統計的研究が示すのは、「この指標が悪くなれば倒産する可能性がおおきい」という確率的な予測ができるのがせいぜいだ、というものです。偶然性に支配される要素を排除しなければ、科学とはおよそ呼べるものではないでしょう。
ただし確率が高い、ということは原因が究明されてはいないとはいえ、その背後になんらかの必然性や因果関係が潜んでいることを示唆しています。それが今はあきらかではなくとも、いずれ科学として財務分析が確立される日が来るかもしれません。
このように財務分析(財務諸表ひいては会計制度)にはいまださまざまの問題点がありますが、これらは改善の課題は示しても、財務分析それ自体の意義を少しも損なうものではありません。企業のさまざまな経営活動の結果を統一・体系的に把握するには、現在のところは、もっともすぐれたものということができます。
以下では、財務分析に先立って、まずその分析の対象となる財務諸表(貸借対照表と損益計算書)の理解からはじめることにしましょう。
2 財務諸表〜貸借対照表と損益計算書
2−1 企業の経営活動と財務諸表
企業の経営活動を資金の流れからながめてみると、つぎのように整理できます。
(1)資金の調達
ゞ睛撒ヾ悗覆匹らの融資・社債の発行(負債)
株式の発行(資本;株主資本)
(2)資金の投資・運用
取引先から材料・商品を仕入れる(仕入)
た遊鑒顱Ω熱費などの販売費や管理費を支払う(営業経費)
ヅ效蓮Ψ物などを購入する(固定資産)
商品・製品を販売する(売上)
余資を株式・国債などに投資する(有価証券売買差損益)
(3)資金の配分・返済
╋睛撒ヾ悄債権者に利息を支払う(支払利息)
税金を支払う(法人税等)
株主に配当を支払う(配当金)
企業会計はこれら主だった企業の経営活動を、2種類の財務諸表で表現します。貸借対照表は企業の財務活動による資金の調達および資産への運用状況(財政状態)を、損益計算書は経営活動においてどのように資産が消費され、どのように収益を生みだしているのか(経営成績)をあきらかにすることを目的としています。
2−2 貸借対照表(Balance Sheet;B/S)
貸借対照表(B/S;バランスシート)は、企業が集めてきた資金の「出どころ(調達源泉)」を、その返済義務の有無によって負債(他人資本)と資本(自己資本)として区分表示し、資金の「使いみち(運用状況)」を資産として表示することによって、企業の一定時点における財政状態を表すものです。
ただし「資産」といってもその中身は現金や有価証券といって換金性の高いものから、工場や機械設備、土地といった事業目的で使用するものなど多種多様です。これらが何の法則性もなくバラバラに並べられているとしたらどうでしょう。貸借対照表を見る人は、会社の状況を把握するうえで余計な苦労をすることになります。そこで貸借対照表は、資産や負債の性質によって区分表示し、これをわかりやすくする工夫がなされています。
2−2−1 資産の部
資産の部は、流動資産と固定資産、繰延資産の区分に分けられます。
(1)流動資産と固定資産
流動資産の区分には、以下のふたつの基準(企業会計原則)に該当する資産が記載されます。
弊犠錙鳳超判朶調霆
1年基準(ワンイヤー・ルール)
(正常)営業循環基準とは、企業の通常の営業活動のなかで生じた売上債権(「売掛金」や「受取手形」)、「商品」・「製品」・「半製品」・「原材料」等の「棚卸資産」(年度末の在庫)などの資産は、流動資産の部に記載するとする基準です。
1年基準とは、決算日(貸借対照表を作成する日)から1年以内に現金による回収が見込まれる資産は、流動資産の部に記載するとする基準です。売買目的の「有価証券」や、短期の「貸付金」などがこれに該当します。
これらふたつの基準に該当しない、長期にわたり事業に使用する目的で購入した資産(「土地」や「建物」、「機械」・「設備」、「車輌」などの有形固定資産と「特許権」や「営業権」などの無形固定資産)や、子会社や関連会社などの株式(所有目的の「有価証券」)などは固定資産の部に記載されます。
(2)繰延資産
繰延資産とは、すでに費用として資金の支出がなされているが、その効果が長期にわたって発現すると認められるものを、支出した期間の費用として処理せずに、将来の期間に分割して費用計上するために資産の部に経過的に計上しておくものです。その目的とするところは、効果(収益)と費用との対応関係を明確にすることにあります。商法では開発費や試験研究費、創業費、新株発行費など8項目を限定的に認めています。
(3)資産の配列方法
このように、さまざまな資産を換金性(流動性)の高い順番に表示する方法を流動性配列法といいほとんどの企業がこの方法によって作成しています。ただし、NTTや東京電力などのように、経営活動における固定資産の重要性が高い企業は、固定資産から記載する固定性配列法を採用しています。
2−2−2 負債の部
負債の部も資産の部と同じく、 ̄超判朶調霆爐鉢1年基準によって流動負債と固定負債に区分して記載されます。
2−2−3 資本の部
資本の部は、企業に資金を融資する債権者を保護するため、企業の財産的基礎を充実・確保する目的で、商法によってきびしくルールが定められています。基本的には株式発行にともなって株主から拠出した部分(「資本金」)、株式発行(資本取引)にともなって生じた余剰部分(「資本準備金」)、企業がみずからの経営活動で稼ぎ出した利益の社外流出(配当金)のうち商法で積み立てが強制されている部分(「利益準備金」)、その他株主総会で認められた各種積立金(「その他の剰余金」)から構成されます。商法によるしばり(規制)が厳しい順番に並んでいます。
2−3 損益計算書(Profit and Loss Statement;P/L)
損益計算書(P/L)は、企業が経営活動をつうじて増加させた資産である「収益」と、そのために消費した資産である「費用」とを対応させることにより、その差額として増加した純資産を「利益」として表示することによって、企業の一定期間における経営成績を表すものです。
企業の経営活動といってもその内容はさまざまです。流通業であれば商品を仕入れるという調達活動(製造業であれば材料の調達と製造活動)や、商品を宣伝したり顧客のもとに届ける販売・マーケティング活動、さらに事業運営に先立って資金を集めてきたり余資の運用をする金融・財務活動、これらの活動を調整・管理する管理活動・・・。これらをすべてまとめて表示したのでは、損益計算書を見る人は、いったい企業がどのような活動にどれだけ資産を消費し、どの活動からどれだけもうけているのかがわかりません。そこで損益計算書は、主たる企業の活動別に区分表示することによって、これをわかりやすくする工夫がなされています。
2−3−1 営業損益計算の区分
営業損益計算の区分は、企業の営業活動、すなわち商品・原材料の仕入、製品の製造、商品・製品のマーケティング・販売、そのほか本社の管理や開発などの経営活動の成果がふたつの利益で示されます。
(1)売上総利益
企業の経営活動がうみだす収益のもととなる、商品・製品の販売高すなわち「売上高」から、その商品・製品そのものの仕入原価・製造原価のうち、販売された分に相当する原価を示す「売上原価」を差し引いて計算される利益が売上総利益です。俗に、粗利益(アラりえき)とも言われます。
売上総利益は、仕入活動や製造活動の効率性(いかに安く仕入れること、製造することができているか)や、販売している商品・製品にたいして消費者が認める価値の水準(他の商品にはない独自の価値があるか)によって影響されます。売上総利益が売上高に占める割合(売上高総利益率)が高ければ、これらがうまくなされていると判断できます。
(2)営業利益
売上総利益から、「広告宣伝費」)や「役員報酬・給料諸手当・賞与」「水道光熱費」など、商品・製品の開発・宣伝や従業員の給料、部門の運営など、企業の販売・管理活動にかかった費用(これを「販売費及び一般管理費」と総称します)を差し引いて計算される利益が、営業利益です。企業の本業の利益を表しています。
2−3−2 経常損益計算の区分
営業利益に、「受取利息」や「受取配当金」など、企業の本業である営業活動以外の財テクといった金融・財務活動から生じた「営業外収益」を加算し、さらに「支払利息」や「有価証券売却損」や「有価証券評価損」など同じく金融・財務活動から生じた「営業外費用」を差し引いて、経常利益を計算する区分です。
経常利益は、企業の本業だけでなく、本業を支える資金の調達や、さらには余資の運用といった活動の成果をふくめて総合的に企業の成果を示すものであるため、これまで日本では利益の王様の地位を占めてきました。
2−3−3 純損益計算の区分
経常利益に、「固定資産売却益」など、臨時的・偶然的に生じた利益である「特別利益」を加算し、そこから「固定資産売却損」や「投資有価証券評価損」といった同じく臨時的・偶然的に生じた損失を差し引き、さらに「法人税、住民税および事業税」などの税金を差し引いて当期純利益を計算する区分です。企業の常時継続的になされる活動だけでなく、偶発的に生じた損益と税金支払いを加味したものであるため、最終利益とも言われます。
3 財務分析
ではいよいよ貸借対照表および損益計算書にたいする一定の理解ができたところで、代表的な財務分析の手法をご紹介したいと思います。そして第局瑤任蓮⇔通業界のなかでもスーパーをとりあげ、実際に財務分析をおこない、経営破たんの兆候をいかにつかみとれるかについて説明したいと思います。
スーパー業界をとりあげるのは、ここ数年、経営破たんや外資による買収など業界再編の動きが激しいためです。不況のあおりを受けて、業界全体の成長性は鈍化さらにマイナス成長の様相を示していますが、勝ち組はそれでも高収益体質を保ち一定の利益をあげるいっぽう、負け組は不況に耐えきれず、経営破たん、外資による買収、公的資金の注入などへの道を歩んでいます。このちがいを財務分析からよみとる方法はないでしょうか。昨今の「経営破たんへの道」を特徴づけるパターンは見いだせないでしょうか。
3−1 企業の安全性分析
貸借対照表は、一定時点における企業の資金の運用状況(企業が保有する資産)と資金の調達源泉(他人資本と自己資本)とを対照表示することによって、企業の財政状態を示すものでした。ですから貸借対照表を分析することによって、企業の資金調達および資金運用の安全性を評価することができます。
安全性は時間の長短によってふたつの観点から分析されます。つまり「当面の資金繰りは大丈夫だろうか?」という短期の支払能力(流動性)の観点と、「不況にたいする耐久力はあるだろうか?」「設備投資は健全だろうか?」という長期の安定性の観点です。
3−1−1 企業の短期支払能力を分析する
(1)流動比率
企業の支払能力を分析する代表的な指標が流動比率です。これは、短期的に現金化される流動資産が、短期的な現金支払義務のある流動負債に比較してどの程度あるのか、つまり短期的な支払能力がどの程度をあるのかを示す比率で以下の算式で求められます。
比率が高ければ高いほど、良好な水準にあると判断されます。200%が理想的な水準であると言われますが、上場企業の場合、平均130〜140%程度です。
(2)当座比率
当座比率は、流動資産から換金可能性のリスクが高い在庫を除外し、さらに厳密に支払能力を評価しようとするもので、以下の算式で求められます。
当座資産とは、流動資産のなかからとくに現金化しやすいものを選び出したもので、一般的に、現金預金、売上債権(売掛金と受取手形)、有価証券を合計したものです。この比率も流動比率と同じように高い方がよく、100%がひとつの目安とされています。
3−1−2 企業の長期的な安定性を分析する
(1)自己資本比率(株主資本比率)
企業が集めた資金がどれだけ返済する必要のない自己資本(株主資本)で賄われているか、つまり財務面での長期的な安定性を評価するための指標です。以下の算式で求められます。
この比率が高いほど財務的な安定度が高く、不況時の耐久性が高いことを示しています。日本の上場企業の平均値はおよそ40%程度です。
(2)負債比率(デット・エクイティ・レシオ;D/Eレシオ)
負債(他人資本)と資本(自己資本)との直接的な関係で企業の安定性を検討する指標が、負債比率で、以下の算式で求められます。
この比率は、負債による資金の調達が自己資本の何倍あるか、を判断するものですから、低ければ低いほど安定性が高いと判断されます。また、パーセンテージではなく、単純に倍数で表現されることもあります。
(3)固定比率
企業の固定資産投資にたいする資金調達の安定性を判断する指標で、以下の算式で求められます。
この比率が低いほど、長期間にわたって資金が拘束される固定資産投資の資金調達が、返済しなくてもよい資本(自己資本)を中心におこなわれていることを示し、安定性が高いと判断されます。一般的には100%以下が望ましいといわれています。
(4)固定長期適合率
負債が長期・低利のものであれば、かりに固定資産投資が自己資本の範囲を超えるものであったとしても、必ずしも経営上の安定性が損なわれているとはいえません。そこで、固定比率を発展させて、さらに自己資本と長期性の負債とのかかわりで固定資産投資の安定性を検討するのが固定長期的合率です。以下の算式で求められ、固定比率と同じく低いほど安定性が高いと判断されます。
3−2 企業の収益性と戦略分析
企業の経営活動は、資金を調達し、運用し、その結果として生み出された成果を、資金の提供者に配分したり、あるいはふたたび運用に回す、という基本的なサイクルから成り立っています。したがって、企業の経営活動の総合業績は、集めた資金がどれだけ成果に結びついているかを測ることで判断されます。企業会計で言えば、それぞれ集めた資金は「資本」、生み出された成果は「利益」が相当します。すなわち、資本利益率(ROI;Return on Investment)で判断することができます。
3−2−1 資本利益率(ROI)
資本利益率とは、資本にたいする利益の割合であり、その一般式は以下の算式で表されます。
(1)総資本経常利益率
企業が集めたすべての資金(運用しているすべての資産)が、どれだけ経常利益に結びついているかをみるものです。経常利益は、営業活動および金融・財務活動の成果を加味した、企業が常時、継続的におこなっている活動の成果をあらわしました。企業が調達した総資本が、これら経常的な活動の成果にどれだけ活かされているかをみるのがこの指標の意味ですから、企業の経営活動全体の成績を測る指標としてもっとも適切だと言われています。
(2)株主資本利益率(ROE:Return on Equity)
企業が調達した資金のうち、株主から集めた部分である株主資本(自己資本のことです)の収益力をみるものです。自己資本(株主資本)に対応する利益として適切なものは何でしょうか。一般的には、株主への配当の原資となる当期純利益を分子に用います。株主が重視する指標のひとつとして知られています。
3−2−2 収益力を決めるふたつの要因
企業の収益力は、企業が調達するすべての資本(総資本)、あるいは運用している資産(総資産)と、企業の総合的な経営活動の成果を示す経常利益の対比によって示されます。この指標が高いことは重要ですが、では果たしてどういった理由で高い(あるいは低い)のでしょうか。これを分析し、経営戦略の一端を垣間見るには、売上高経常利益率と総資本回転率のふたつの要因に分析する必要があります。
(1)売上高経常利益率(ROS;Return on Sales)
企業の常時継続的な活動(営業および財務活動)の成果を意味する経常利益の売上高にたいする比率であり、経営活動全体をつうじて企業が創造した「価値」を意味します。この指標に影響する要因もさまざまですが、「売上高経常利益率が高い」ということは、「製造(仕入)・営業・財務をつうじて創造した価値幅が高い」と判断することができます。
(2)総資本回転率(TOR;Turn Over Rate)
企業が調達したすべての資本(企業が運用するすべての資産)がどれだけ売上高に結びついているかを示す比率であり、資本運用上の「効率」を意味します。すなわち、企業が収益(売上高)を稼ぎだすために、どれだけの資本を必要としたかを意味しており、少ない資本で多くの収益をあげることができれば、それだけ効率がよいと判断できるわけです。総資本と売上高が同額である場合、総資本額がすべて活用された(同等の収益に結びついている)という意味で「1回転」と表現します。
企業の総合的な収益性を示す総資本経常利益率は、売上高経常利益率と総資本回転率によって決まることがわかります。企業にとってはこれらふたつの要因を同時に向上させることによって、総合業績を上げることが望ましいことは言うまでもありません。
しかし一般的にこのふたつの要因を同時に向上することは困難であり、同じ業界で競争する企業は、このどちらか一方を向上することによって、結果的に企業の総合業績をあげているという傾向があります。売上高経常利益率を向上させている企業を「高付加価値型」、総資本回転率を向上させている企業を「高効率型」とここでは呼ぶことにします。
たとえば世の中にない新しい製品・市場を創造していく研究開発型の企業は、高付加価値型に分類されます。こういった企業は、新しい製品(新価値)を提供していくため、消費者がその製品・サービスにたいして支払っても良いと考える価格(認める価値)が高く、収益に占める利益の幅が相対的におおきくなります。しかし研究開発投資には多くの資本が必要となるため、資本効率は悪くならざるをえません。そして既存の製品・市場に後発で切り込んでいく企業は、高効率型に分類されます。新製品・新市場を切りひらいた先発企業にたいして、ほぼ類似とみられるサービスや製品を提供することで勝負するには、それらをいかにすくない資本で収益を実現するかに焦点が当てられることになるためです。
これについて即席めん業界ではげしい競争を繰り広げる日清食品と東洋水産についてみてみましょう。上記のようなおおまかな分類が適当であるとすれば、日清食品は高付加価値型、東洋水産は高効率型、ということがいえます。ご存じのとおり、日清食品は「チキンラーメン」の開発・製造によって即席めん市場を創り出しました。その後も、「カップヌードル」、即席生ラーメン「ラ王」など革新的な製品を開発している研究開発型の企業です。東洋水産はこれら市場に後発で切り込んで、日清食品がつくった市場をバラエティゆたかなものにしています。これら両戦略はどちらがすぐれているとか、ただしいといったものはなく、どちらも市場を豊かにし、発展させるために必要です。ただし高効率型の戦略は価格競争の泥沼に巻き込まれることも多く、こんにちでは高付加価値を追求する戦略が重視されているようです。
総資本経常利益率の分解による、戦略タイプの推察は、あくまで分析の第一歩であり、きっかけにすぎません。さらに売上高経常利益率、総資本回転率の中身について分析することによって、企業経営に迫ることが必要です。
「第局堯.院璽好好織妊〜スーパー業界の財務分析」では経営破たんが相次ぐスーパー業界を例にとって、これら財務分析手法によって、どのようなことが分かるのかについてみていこうと思います。
記載内容の無断転載・引用、直リンクを禁ず。
Copyright:TETSUYA FUKUDA all rights reserved.
添付ファイル:




















ログイン
Powered by