花王蠅砲けるEVAマネジメント・システム
(関東学院大学『経済系』第208集 2001年 7月 pp.13-26)
本稿では、近年、株主を重視した新しい企業業績評価の指標として脚光を浴びているEVAについて、これを導入し実績を上げている花王に着目し、その意義と理論的問題について若干の検討を試みた。
EVAとは、企業会計において算定される利益や資本に修正をほどこし、企業に投下された全ての資本が、投資した主体(投資家)が期待する利益率を超過した価値を生み出しているかどうかを測定する指標である。
これは従来の、収益から、営業活動にともなって生じる費用と、利子支払いや配当といった財務活動にともなって生じる費用のすべてを差し引いた残余利益(RI)という管理会計上の概念に属するものであるが、次の2点において異なるものである。すなわち、収益および費用、そして資本の測定にあたっては、期間損益計算にともなう企業会計上の仮定に依拠せず、キャッシュ・ベースおよび経済的効果の観点から修正をほどこすこと。そして、財務活動にともなう費用は、市場で株式売買に参画する投資家が、企業に期待する収益率をベースにした資本コストによって認識すること、である。
こういった修正によって、EVAは、会計上の利益数値にみられる企業特殊的な依存性を排除し、たんに利益配当ではなくキャピタルゲインも含めた投資家の総合的な期待を反映することを可能とし、株主重視の経営の台頭とともに注目を浴びているのである。
そのようななか、花王が1999年4月、他の日本企業に先駆けて、EVAを報酬システムをも内包したマネジメント・システムとして導入した。
花王ではとりわけ教育・啓蒙活動に注力しているという。これはEVA上昇を、株主価値の上昇という外的要因から、従業員の内発的動機という内的要因に置き換える試みであるといえよう。
すでに述べたように、EVAが注目されるのは、それが株主価値の増加を促進するためである。しかし「EVAが正(プラス)である」、ということは、実は営業費用と負債資本の調達にともなう費用(負債資本コスト)、さらに株主が要求する期待収益率としての株主資本コストを上まわる価値を創造したことを意味するのであり、その主体は従業員にほかならないのである。このことは、EVAの本質について再検討する余地を示唆するものである。すなわち、EVA成果は、本質的に従業員に分配されてしかるべきものであるのではないか、ということである。花王におけるEVAにもとづくインセンティブ・プランの実践は、これを具体化したものであるといえる。
また、EVAを新規投資のための判断基準として使う場合に、長期的には価値をもたらす可能性があるとしても、短期的には負のEVAが計算される状況があり、その場合には、社長の強力なリーダーシップでこれを推し進めるという。しかしこのような対応は、EVAシステムがもたらす問題について、システム外部の人間の融通性で対処しようとするものであり、積極的な解決策であるとは言い難い。そしてこの点は、あきらかにEVAに矛盾が内在することを示唆するものである。
この問題は、フロー概念であるEVA計算において、ストック概念である資本額のすべてを計算の基礎としているところに原因の一端があるように思われる。EVAにおける資本の調整計算には、EVAを増加させるうえで経済的な効用をもつにもかかわらず、費用処理されているR&D費の資本化調整などがある。であるとすれば、EVAの増加、あるいは減少になんら影響を及ぼさない資本の分離もまた、論理的一貫性をもった調整であると言えのではないか。
花王はさらにEVAシステムを完全なものとするために、教育・啓蒙活動に注力すると同時に、システムの精緻化を現在もすすめている。今後のさらなる展開が注目される。
(2001年4月)




















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